2008年9月アーカイブ


日本大学芸術学部文芸学科     2008年(平成20年)9月29日発行

文芸研究Ⅱ下原ゼミ通信No.110
BUNGEIKENKYU Ⅱ SHIMOHARAZEMI TSUSHIN
                              編集発行人 下原敏彦
                              
2008後期9/22 9/29 10/6 10/20 10/27 11/10 11/17 12/1 12/8 
12/15 1/19 1/26 
  
2008年、読書と創作の旅

9・29下原ゼミ

9月29日(月)の下原ゼミは、下記の要領で行います。文ゼミ教室2

 1.出欠・連絡事項・ゼミ誌原稿提出

 2.次回ゼミ課題・配布と説明
    
 3.世界名作読み・ある店内観察(バイトに関連して)
 
  4.座談会・社会観察(政治への関心度「私の意見」アンケート)
     
 
車窓・『カラマーゾフの兄弟』新訳100万部突破!!
  
 先ごろの新聞(9月13日読売)に上記の見出しのニュースを見つけた。記事は、2段の僅かなものだが、ある意味で全面ぶっちぎりにも匹敵する、大きな出来事でもある。まず古典ものが、一時期にこれほどのベストセラーになること事態、奇跡である。むろん古典は流行に関係なく売られているわけだから、『福音書』を含め、全世界で売られているのは膨大な数だ。が、1年、2年の短期間にとなると、日本だけの現象かも知れないが驚嘆するしかない。それに加えて、このベストセラー本が、古典のなかでも、長い、くどい、暗い、重いで最も敬遠されているドストエフスキーともなれば、これを奇跡といわずしてなんと言おうか。この快挙を新聞記事は、このように報じている。
 光文社は13日、古典新訳文庫として刊行している亀山郁夫氏訳のドストエフスキー作『カラマーゾフの兄弟』が、全5巻合わせて100万部突破したと発表した。古典文学としては異例の売れ行きという。同書は2006年9月発売開始。好色で金に汚い父親の殺害事件をめぐる3兄弟の言動を通し、神、死、人間の罪などの問題を描いた19世紀ロシア文学を代表する長編。亀山氏は東京外語大学長で、新訳は、対話形式で進む言語のいきおいを生かした軽快さが特徴で、先行訳と比べ、読みやすく理解しやすいと評価されている。昨今の古典作品の新訳ブームのきっかけともなった。
 なぜ、ブームになったのか。諸説は多々ある。時代が要求した。訳が斬新で若者向けだった。などなどがあるが、肝心なのは、どれほどの人が、本当に実際に読みきるかである。
 この作品について記事では「19世紀ロシアを代表する」と書いてある。が、時代を超えて全世界文学の頂点にあることは、文学者のみならず多くの賢者が証明している。かのアインシュタインしかり、ニーチェしかりである。あのブッシュ・ローラ大統領夫人もいつも手元においてあるという。どこに魅せられるのか。秋の夜長、挑戦してみてください。


日本大学芸術学部文芸学科     2008年(平成20年)9月22日発行

文芸研究Ⅱ下原ゼミ通信No.109
BUNGEIKENKYU Ⅱ SHIMOHARAZEMI TSUSHIN
                              編集発行人 下原敏彦
                              
2008後期9/22 9/29 10/6 10/20 10/27 11/10 11/17 12/1 12/8 
12/15 1/19 1/26 
  
2008年、読書と創作の旅

9・22下原ゼミ

9月22日(月)の下原ゼミは、下記の要領で行います。文ゼミ教室2

 1.出欠・連絡事項・ゼミ誌原稿提出

 2.後期ゼミについて
    
 3.私の夏休み(どんな2008年の夏でしたか)
 
  4.テキスト読み・法廷作品「あなたなら、どんな判決か」
     
 
     車窓 2008年の夏に想う
 
 2008年の夏は、一口に言えば大変な夏だった。地球温暖化の危機を感じた連日の酷暑。ノアの大洪水を思わさせた局地への集中豪雨。東西冷戦ふたたびの緊張が甦ったロシア軍のグルジア侵攻。ワイダーの『地下水道』のような日本経済。年金、医療、教育、拉致、消費税どこまで行っても出口なし。まさに一寸先は闇だった永田町。「あなたとはちがうんです」謎の言葉(ギャグ)を残した福田首相の退陣。問題山積のままはじまった衆院選挙への狂想曲。米国からは大統領選挙の喧騒と大手企業の倒産。日本社会は、底なしの疑惑沼。毒ギョウザも未解決、うなぎ、牛肉産地疑惑。そして、事故米やカビ米食料転売。(謝罪か弁解か、立志伝社長たちの容姿、話し方が皆同じなのはなぜか?)お役人の職務怠慢天国。とどめは農水大臣のジタバタ辞任。場外では土俵外勝負が注目された大相撲と大混乱がつづいた。
 兎に角、今夏の車窓は、生活ものから自然災害ものなど、あらゆる分野の映画の一コマを観るようだった。が、その大半は、後味悪いものばかりだった。何か、爽やかな風を感じる心楽しめる車窓はなかったものか。あるとすればテレビ観戦した北京五輪か。いまも選手たちの活躍、観客の歓声が目蓋や耳に残っている。口パクや演出過剰はあったが、史上最多となる204の国・地域からの参加。競技も最多で300種目を越えた。いろんな問題があった。が、17日閉会のパラリンピック共に成功裏に終わった。まずはメデタシである。
 しかし、この世界の平和と人類の幸福を願う祭典も、現実は、理念とはほど遠いものだった。結局は、開催国の国家高揚と、各国のメダル数獲得合戦だった。「屁のつっぱりにもならんですよ」石井選手が笑いとばしてくれたが、成功の陰で考えるところが多かった五輪である。北朝鮮問題、チベット騒動、パキスタン、タイ、アフガンに青春を捧げた日本人青年の死。車窓を騒がしく暑苦しかった2008年の夏が過ぎてゆく。台風13号で涼しくなった夜。ヘミングウェイの『危険な夏』を思い出して書棚に探した。