2008年12月アーカイブ


日本大学芸術学部文芸学科     2008年(平成20年)12月15日発行

文芸研究Ⅱ下原ゼミ通信No.118
BUNGEIKENKYU Ⅱ SHIMOHARAZEMI TSUSHIN
                              編集発行人 下原敏彦
                              
2008後期9/22 9/29 10/6 10/20 10/27 11/10 11/17 12/1 12/8 
12/15 1/19 1/26 
  
2008年、読書と創作の旅

12・15下原ゼミ

12月15日(月)の下原ゼミは、下記の要領で行います。文ゼミ教室2

 1.ゼミ誌刊行報告 出欠・連絡事項・その他

 2. 合同ゼミ発表会・擬似裁判
    「ナイフ投げ奇術師美人妻殺人疑惑事件」
     
 
12月の時空車窓 
 クリスマスのイルミネーション。正月の飾り物。12月の車窓は、いつの時代も華やかだ。しかし、なぜか、胸騒ぎする。というのもこの季節、喧騒の最中、よく大事件が勃発するのだ。2008年の今年は目下、不況の嵐が吹き荒れている。米国の津波をもろに受けて、これまでにない底冷えだという。派遣切り、大学生の内定取り消しのニュースが止まない。新しい内閣は、支持率急落。政局低迷、政権末期症状と囁かれている。車窓には、社会不安という大きな波が渦巻いて映っている。ジンクスか、過去の車窓を振り返ってみた。
 年末という季節、いったいどんな出来事があったのか。近いところでは、8年前の2000年に世田谷で起きた一家4人殺人事件。証拠となる遺留物は多いが、未だ解決に至っていない。日本もアメリカも好景気で沸いていた。「ついに犯人を突きとめた」など、いろんな推理ルポがでた。どれも泡沫だった。(編集室の推理は、犯人が食べたアイスクリームにカギあるかも)。遺留品が多いといえば、やはり日本が高度成長期で昭和元禄を謳歌していた頃、1968年12月10日、府中で起きた三億円盗難事件である。映画、テレビドラマ、出版物で注目された。が、こちらも解決はしていない。12月の車窓で、最大級の眺めといえば、67年前、今と同じアメリカも日本も大不況の只中にあるときに起きた出来事。1941(昭和16)年12月8日、日本は、どこで狂ったのか、兵力も資源も何十倍もあるアメリカ、イギリスに奇襲戦法で戦いを挑んだ。『高校日本史』(実教出版)には、このように書いてある。この日「航空母艦を主力とする日本海軍の機動部隊は、ハワイ諸島を奇襲し、真珠湾に停泊中のアメリカ太平洋艦隊に大損害をあたえた。また、同日、日本陸軍は、イギリスの植民地であるマライ半島北部に上陸を開始した。」このときの様子は、映画『トラ・トラ・トラ』(1970公開)で知ることもできる。不況を戦争で解決しょうとした悲劇だった。
 12月車窓で一番の見ものといえば、赤穂浪士討ち入りであ。ときは元禄14年(1702)、12月15日未明、播州・旧赤穂藩の浪士47人が、主君の仇を討つために本所の吉良邸を奇襲し、吉良上野介の首をとった。吉良側の死者は16名、重軽傷者約30名、浪士側は、軽傷者数名のみ。46名が自首したが、翌春、切腹した。1名は武士でなかった為、墓守となる。時空の師走車窓は劇的絵巻でもある。(編集室)



日本大学芸術学部文芸学科     2008年(平成20年)12月8日発行

文芸研究Ⅱ下原ゼミ通信No.117
BUNGEIKENKYU Ⅱ SHIMOHARAZEMI TSUSHIN
                              編集発行人 下原敏彦
                              
2008後期9/22 9/29 10/6 10/20 10/27 11/10 11/17 12/1 12/8 
12/15 1/19 1/26 
  
2008年、読書と創作の旅

12・8下原ゼミ

12月8日(月)の下原ゼミは、下記の要領で行います。文ゼミ教室2

 1.ゼミ誌作成報告 出欠・連絡事項・課題配布

 2.世界名作読み 詩編「空」ヴェルレーヌ
    
 3.課題・合同ゼミ発表稽古
 
  4.社会評・議論 「いじめ・暴力はなぜなくならないのか」新聞から
     
 
2008年の車窓・百鬼夜行 
 百鬼夜行という言葉がある。意味は岩波の国語辞典でみると「いろいろな姿をした鬼どもが、夜中に行列して歩くこと。また、多くの人が奇怪な行動や不正な行動を公然と行っている」とある。あと二十日余りで終わる2008年を振り返ると、なぜか、この言葉を彷彿する。
 まず、鬼と言っては失礼だが、今年の世相を映した「2008ユーキャン新語・流行語大賞」をみると、仮装した鬼たちの行列が思い浮かぶ。「アラフォー」「グ~ ! 」「上野の413球」「居酒屋タクシー」「蟹工船」「ゲリラ豪雨」「後期高齢者」「名ばかりの管理職」「埋蔵金」「あなたとは違うんです」これらの言葉に関連性があるかどうかは知らないが、今年を彩った仮装者たちの支離滅裂な言葉にそれをみる。もっとも、仮装行列の言葉なら害はない。人畜無害、オドロキとオモロイだけである。が、もう一つの意味「多くの人の奇怪な行動と不正な行動」は、どうサバ読んでもいただけない。しかし今年は、こちらに当てはまる人物が多発したようだ。まずは、この国の宰相である。名門中の名門。お金持ち中のお金持ち。お坊ちゃまで裸の王様というこのお方。マンガの読みすぎで漢字の読み違えはご愛嬌だが、問題発言やらホテルバー通いなど奇怪な行動が目立った。奇怪といえば、先般、この欄でも書いたが、34年ぶりに愛犬の仇を討ったという殺人者。だれでもよかった秋葉犯と同族の輩。近く精神鑑定を行うらしいが、まさに奇怪な犯罪行動であった。他にも奇怪な行動者は多々いる。これも、同通信で取り上げた人物。あれだけ世の中を騒がして、臆することなく7千万円もの退職金をもらった軍人もその1人だ。幕僚長というと、何だろう。昔で云うと元帥閣下か大将か ?! この大将、何を狂ったか懸賞論文にせっせと応募し、部下にも応募させていたようだ。確かに彼の怒りも理解できなくもない。格差が広がり、吸血鬼まがいの派遣会社が幅をきかす荒涼たる世の中。これも世襲の安泰と選挙にのみ汲々とする政治家の無能がなせる業である。ストーカーする裁判官、懸賞論文を書く軍人。ロシア文学ベストセラー。2008年、まさに奇々怪々の車窓だった。(編集室)


日本大学芸術学部文芸学科     2008年(平成20年)12月1日発行

文芸研究Ⅱ下原ゼミ通信No.116
BUNGEIKENKYU Ⅱ SHIMOHARAZEMI TSUSHIN
                              編集発行人 下原敏彦
                              
2008後期9/22 9/29 10/6 10/20 10/27 11/10 11/17 12/1 12/8 
12/15 1/19 1/26 
  
2008年、読書と創作の旅

12・1下原ゼミ

12月1日(月)の下原ゼミは、下記の要領で行います。文ゼミ教室2

 1.ゼミ誌作成報告 出欠・連絡事項・課題提出・課題配布・授業評価

 2.課題発表・「コルシカわが子射殺事件」裁判
    
 3.世界名作読み 詩編「空」、幕末江戸観察・シュリーマン『日本』
 
  4.社会評・議論 「いじめ・暴力はなぜなくならないのか」新聞から
     
 
今週の車窓・2008年象徴の事件 
 年の瀬が近くなると、なぜか大きな事件・出来事が起きるような気がする。オウムの犠牲になった坂本さん一家三人失踪事件、スマトラ沖大地震、世田谷一家四人惨殺事件などなどがそれである。今年も何か・・・と不安に思っていたら、やはり起きた。19日の新聞各紙は一面トップで「元厚生次官宅 連続テロ」(読売)、「元厚生次官宅 連続襲撃」(朝日)を大々的に報じた。テレビニュース・新聞によれば、18日午前10時20分ごろ、埼玉県で自宅玄関で夫婦が死んでいるのが発見された。夫妻の胸に刺し傷が数ヶ所あった。死亡推定時刻は前夕頃とみられている。同日夕方東京中野区で、主婦が宅配を装った男に襲われ胸などを刺され重傷を負った。殺害された夫婦の夫(66)と、後の事件で重傷を負った主婦の夫(76)が、元厚生事務次官で、共に年金改革に携ったことから、マスメディアは連続「年金テロ」と、大々的に書きたてた。テレビでは元警察関係者、元事件記者、弁護士、評論家、タレントらが、あれこれ推理していた。政治的背景か単独犯か、動機と犯人像に注目があつまった。
 ところが22日、事件は急転直下、終息した。犯人が自首したのである。なぜか所轄ではなく、警視庁本庁に。自分が犯人と名乗る46歳の中年男は、職業不詳。犯行理由は、30余年前、保健所に愛犬を処分されたので、その仇討ちと云う。なんとも奇妙な動機だった。
 今年は、各地で不可解な事件が起きた。秋葉原の「だれでもよかった」殺傷事件に代表されるが、今回の事件は、まさに今年を象徴する犯罪といえる。犯人は、小中高まで山口県の実家にいた。おとなしい勉強のできる子どもだったらしい。が、佐賀大学に行ってから変わりはじめた。とはいえ教授が就職を世話したというから...。しかし、何事も長く続かず、この10年は、実家とも連絡が途絶えていたという。アパート家賃は、きちんと払っていた。家で株をしていたらしい。パソコンに詳しい。そういえば、最近、事件を起こす人間は、出会い系、ブログ、メール、掲示板、などなどパソコンに造詣が深い。もしかしてインターネットのなかに犯罪に至らしめる「透明な存在」がいるのかも知れない。(編集室)
文芸研究Ⅱ下原ゼミ通信No.116―――――――― 2 ――――――――――――――

車窓雑記

早合点婆さんと若夫婦とその子供観察
 つるべ落としとはよく言ったものだ。が、井戸など見当たらない昨今では、死語になっているかもしれない。晩秋も終わりのこの季節、とにかく日の入りが早くなった。夕方、5時ともなれば、すっかり夜のとばりがおりてしまっている。暗い歩道をとぼとぼ歩いているのは学童保育からの帰りの子供たちか。さて、いきなりだが、団地8階に住む早合点婆さんは、パートから木枯らしに追いまくられてヨロヨロわが家に急いでいた。8階でエレベーターを下りるとわが家のドアは、すぐそこ。早合点婆さん、一目散にわが家を目指した。が、あとわずかというところでピタリと足をとめた。「はて? 」婆さんは、何か気になることがあったのか、もと来た廊下を後戻りした。814室のドアの下にランドセルを背負った女の子がじっとうずくまっていた。早合点婆さんはお節介婆さんでもある。
「あら、どうしたの」と、声かける。女の子はむすっとして口をひらかない。同じ階なので、母親と一緒のところをよくみかけるが、若い母親は、まったく挨拶をしない女。年寄は、眼中に入らないらしい。会社勤めの夫も、同然。朝、早く夜遅いので、めったに顔を合わせなかった。で、半年前、二人目の子供が生まれたこと以外、この家の事情は、まったくわからない。早合点婆さんは、想像する。たぶんこの子は、朝、学校行くときカギを忘れたんだ。それで、母親の帰りを待っているんだ、と。
 ところが、たずねてみると、そうではないらしい。女の子は、恐ろしげに首を振って小さな声でカギは、「いつも持っていない」と、いう。「お母さんは、いつ帰るの」と聞かれると「わからない」と首をふる。「いつから待っているの」「5時ころから」「もう、1時間もじゃない」早合点婆さん、大げさに驚いていった。「寒いから、わたしのところにきて、待ったら」女の子は、頑として動かない。「何年生」「三年生」「そうなの、じゃあがんばってね。そのうち帰ってくるんだね」早合点婆さんは、あきらめてわが家に帰った。15分ほどして、気になって早合点婆さん、外に出て様子を見に行く。女の子は、さっきと同じ姿勢で寒そうにじっとしていた。「まだ、帰ってこないの」。女の子は、黙ってうなずく。「どこに行ったかわからないの」「うん」「寒いから、うちにきて待ってなさい」「ここで待っています」女の子は、はっきりいった。「そうかい」早合点婆さん、あきらめてもどろうとした。そのときどこからか赤ん坊の泣き声。「あれ、赤ちゃんが泣いてるよ」814号室の中からのようだ。早合点婆さん、ドアポストに耳をあててみる。室内からギャアギャアと赤ん坊の泣き声。
「あらまあ、なかに赤ちゃんがいるのかい」「うん」女の子は泣きそうな顔でうなずく。「お母さんは、赤ちゃんをおいてどこにいったの」「わかんない」「近所に友達の家はあるの」「ない」「いつもあそんでいる子の家は」「知らない」女の子は一向に要領を得ない。その間、赤ん坊は部屋の中でずっと大声で泣き続けている。婆さんすっかりあわててしまった。赤ちゃんが大変だ。110番か、いや消防のレスキューかなど頭をめぐらせた。が、以前、早合点したことを思い出し、とりあえず女の子の学校に電話する。夕方6時、学校の返事、いま担任は面接中なので、あとからかけます。婆さん、いったん受話器をおいたが、この緊急非常時に、なんたる応対と、かけ直し、父親の携帯番号をきく。そして、すぐに父親に。父親はちょうど会社を退社したばかり。すぐ帰りますとの返事。婆さん、やっと安心したが、こんどはあれこれ母親のことを考える。なぜ、帰ってこないのか。事故か、失踪か、事件かなどなど。〒ポストから泣く赤ん坊を励ました。その最中、母親が長い黒髪をなびかせて帰ってきた。ここからが、早合点婆さんの憤慨もの。母親は、娘をみるなり「どうして、こなかったの」と、叱った。どんな事情かしらないが、娘とプールの前で待ち合わせていた、というのだ。いくら待ってもこないので、帰ってきたと話す。女の子は、すっかり忘れていたようだ。しばらくして若夫婦、赤ん坊、女の子が婆さんのところに謝りに来た。若い夫は、開口一番「すべての原因は、子のこのわがままからでたことです」と頭を下げた。早合点婆さんの憤怒、おさまりそうにない。