2005年8月アーカイブ

後期を前に

2005年文芸研究Ⅱ下原ゼミ受講の皆さん、夏休み如何お過ごしでしょうか。ゼミ誌原稿はすすみましたか、書くこと読むことの習慣化は身につきましたか…。まだまだ暑さ厳しき折りですが、体に気をつけて励んでください。
さて、後期授業は「社会観察」です。前期の「車内観察」は、車中という限られた空間でしたが、こんどは社会という広い世界です。事件・出来事・話題・体験などに関心を持つよう心がけてください。毎日の新聞紙上には、観察事が目白押しです。どんな些細な事でもじっくり観察することでより多くの想像が生れます。また、事実をしっかり客観視することで、真実をより強く訴えるルポタージュとなります。

夏休み後半、推薦本

戦後60年に想う「戦争とは何か」

今年は戦後60年ということもあってか、メディアでは太平洋戦争に関しての話題が多かった。そのなかで目立ったのは、外国との「戦争観」の違いである。靖国神社参拝問題しかり、原爆投下の是非しかり。BSテレビで見た各国の戦争観は、日本と大きな差異がある。戦争は悪である。このことは誰もが知っている。が、なぜ国によって、民族によって戦争観が違うのか。あらためて「戦争とは何か」を考えた夏であった。
そこで下原ゼミ受講生の皆さんにすすめたいのは、石川達三の『生きている兵隊』である。「戦争とは何か」を知りたい人は、夏休み残りの日々、この本に挑戦してみてください。別の意味で、この作品は創作ルポタージュの傑作でもあります。
「人間は、なんにでも慣れる。どんなことでもできる」と言ったのはドストエフスキーです。石川達三のこの『生きている兵隊』は、まさにこの言を立証する作品である。そうして「戦争とは何か」を実体験的に教えてくれる作品でもある。
しかし、先の36号でも書いたが、残念なことにこの作家の本は、現在、書店の棚にほとんどない。儲けだけに草木もなびく出版界。手に入れるのは難しいかと思った。が、まだいくらかの良心は残っているようだ。たった1冊、2004年7月10日5刷発行の中公文庫『生きている兵隊』が棚にあった。定価571+税
 1937年(昭和12年)7月7日 北京郊外の盧溝橋で日中両軍が衝突。日中戦争。
  2年前第1回芥川賞を受賞した石川達三(30)12月25日出版社従軍特派員になる。
1938年(昭和13年)1月5日 南京到着(日本軍の南京攻略は前年12月13日)
 2月1日~11日 320枚脱稿
 『中央公論』3月号(2月17日配本)に掲載するが、すぐに発売禁止。